猫にまつわる沖縄の怖い民話
愛玩動物として古来から人気のあるネコ。
古い書物に登場したり、日本画に描かれていたりする身近な動物だが、ネコはイヌほど人に忠実ではなく、ミステリアスなところがあるせいか怪談話を聞くことがある。
沖縄にもネコにまつわる民話があるので、似たような内容の話を二つ紹介していく。
老ネコの怪
ネコは年を取ると化け猫になるという伝承が多いが、沖縄にも同じような民話があった。
その1.「娘に化ける猫」
あるところにネコを長く飼っていた家があった。
ある日、家の主人が体調がすぐれないため、ひと休みしようと畑から家へ戻っていると、居間に正座している娘の後ろ姿が見えた。
ふだんなら家の手伝いで忙しいはずなのに、何もせずただ座っている娘を見て、主人は不審に思い垣根に身を隠して様子をみることにした。
娘は誰か待っているようで、頭だけ動かして辺りを見まわしたり、時おり耳をそばだてたりしている。
ただならぬ様子に主人は化け物ではないかと疑問を抱き、正体を探ろうと娘の名前を大声で呼んでみた。
すると後ろから娘の返事が返ってくる。
ふり向くと母親と娘が立っていて、洗濯を終えて家へ帰ってきたところだった。
娘が二人いることに驚いた主人が居間へ目をやると、さっきまで座っていた娘が立ち上がってこちらをにらんでいる。
気づかれたと悟った化け物は娘の姿からネコへと変わり、大きなネコの姿から次第に小さくなっていくと、飼っていたネコになった。
元の大きさに戻ったネコは悔しそうな顔をして走り去ったという。
その2.「家人を殺そうとした猫」
ある家で、置いていた食べものがなくなることが続いた。
鍋に蓋をしていても戸棚に隠しても食べものがなくなることから、次第に食べる物がなくなり家人は困ってしまった。
そこで出かけるふりをして台所を見張ることにした。
家人が隠れて見ていると、長く飼っていたネコが台所へやってきた。
ネコは台へ飛び乗ると、器用に鍋の蓋を開け、大事な食料を全部食べてしまった。
その夜、家人たちは飼いネコについてこっそり話し合いをした。
「このまま盗み食いをされると、食べものは底をついてしまい、最後はわしらが食べられるかもしれない」
「しかし追い出そうとしたら祟るかもしれない。どうしようか」
年を取ったネコは人の言葉が理解できる。
老ネコは屋根裏で家人の話をこっそり聞いていた。
翌朝、ネコに気づかれてはいけないと、何事もなかったかのように家人は畑へ出かけた。
畑仕事をしていてもどう対処しようかとネコが気になる。
胸騒ぎがしたのでこっそり家へ帰ってみると、裏庭へ行くネコの姿が見えたので様子を窺っていると、ネコは軒下へ入り込み穴を掘り始めた。
夕方になり、家人は何食わぬ顔で家へ戻り、ネコに気づかれないよう普段通りに振る舞った。
次の日、家人は出かけるふりをして身を隠しネコを見ていると、ネコはまた軒下へ潜り穴を掘り続けた。
しばらく様子を見ているとネコは穴を掘るのをやめて、どこかへ行ってしまった。
この隙に家人が軒下を確認してみると、大人がすっぽり入る大きな穴が掘られていて、ネコが家人を殺して埋めようとしていることに気づいた。
恐ろしくなった家人はネコに気づかれぬよう等身大の人形をつくり、その夜は布団の中に人形を置いて押入れに隠れた。
深夜、押入れから室内を見ていると戸が音もなく開き始め、暗闇から目を光らせたネコが入ってきた。
ネコは音もなく忍びより、家人の布団まで近づくといきなり飛びかかった。
布団は無残に破かれ、あっという間に人形は引き裂かれた。
一瞬で事がすんだ後、ネコは人形をくわえて急いで部屋を出ていった。
恐ろしさに震えながらも家人は押入れから出てネコの後を追った。
ネコは音が出ないよう慎重に人形を軒下へと運び、穴へ人形を落とすと埋めてしまった。
すべての作業を終えるとネコは何事もなかったかのように去って行った。
一部始終を見ていた家人はこのままでは家族全員がネコ殺されてしまうと考え、老ネコを殺すことにした。
日が昇り、明るくなってきたので家人はネコを探し始めた。
邪魔者だった家人を殺したと思い込んでいるネコは安心して眠っていた。
家人はネコに気づかれぬよう背後から近づき、手にしていた鎌でネコの首を落とし事なきを得た。
◇
猫は長く飼うと化け猫となり人に仇をなすという民話である。
化け猫は人を騙して喰うと言われていて、沖縄には「長く飼うと化け猫になる」話は各地に残っている。
ほとんどの話が機転をきかせて事なきを得たという内容で、
「ネコは長く飼わない」
「ネコを飼う場合は“○○年まで飼う”と期間をネコに伝えるとネコは出て行く」
などの教訓を聞かされたという。
ほかの動物と比べると猫が登場する怪談は多いので、むかしは猫を怖がる人が多かったと考えられる。
猫にまつわる民話はほかにもあるので別の記事で紹介していくつもりだ。