–はじめに–
この話は場所や人物が特定されないように編集した部分もあるが、実際に見聞したことをまとめたものである。
「視える」と「聴こえる」
IとZは同級生だ。
いつも学校で一緒に行動していたが、学校が休みに入ったので、外で待ち合わせをして会っていた。
待ち合わせの場所はだいたい決まっていた。
学生だった二人はカフェなどへは行かず、公園を利用していて、そこでおしゃべりをしていた。
ふだんは、映画の感想やバイト先のことなど、学生特有のたわいのない話が多いが、たまにIは怪談をすることがあった。
Iは不可解な出来事の話や都市伝説、怖い話などが好きで、どこからか話を聞いてきては「こんな話を聞いたよ」と、Zに話したりしていた。
Iは今回もどこからか仕入れてきた怖い話をZに話した。
話が終わって、Iはこう締めくくった。
「やっぱり幽霊が視える人って大変だよね。生活していて見えていたら恐ろしくて耐えられないよ。私は幽霊が見えなくてよかった」
ZはIの話をうなずきながら聞いていた。
いつもは「怖い話だね」など、ひと言で終わるのだが、今回は珍しくZはIにこう質問してきた。
「じゃあ、視えるだけと聴こえるだけって、どっちが怖いかな」
そして次のように話し出した。
見えないからどんなふうに見えているのかはわからないけど、世間には霊が視える人がいる。
見える人たちは、朝目が覚めてから夜眠るまでの間は、起きているから見たくなくても霊を見てしまうことがあるはず。
自分に直接的な害はなくても霊が見えていたら「もしかしたら自分に危害を加えないかな」とか「ほかの人に何かするんじゃないのかな」と、ずっと気をもんでしまうかも。
だから霊が視えていたら、ずっとやきもきするかもしれない。
視える人に対して、聴こえる人だけど、聞こえてくるのははっきりとした言葉じゃないんだよね。
たとえば独り言のようにブツブツ言っていて聞き取れないとか、ラジオなどから聞こえてくる声で、電波が悪いのかよく聞こえないものとか…
不思議に思って音の元を探すけど、周りに人はいないしラジオもない。
でもどこからか声が聞こえてくる…
いくら原因を探っても声の元が特定できないから、自分の精神がまいっていて幻聴が聞こえているのかと思ってしまう。
この原因不明の声がたまに聞こえることがあって、それはいつも眠りに入る前なんだよ。
はじめは不思議に思って怖かったけど、そのうち慣れてきて気にならなくなった。
ある日、ベッドに入ってうとうとしていたら、また声が聞こえてきた。
この日だけは今までと違っていて、声は大きくてとてもうるさい。
街中で大勢の人が話しているような感じて、ざわざわとしていた。
声の主たちは、自分に向かって話しかけてきているようだけど、たくさんの人がいっせいに話しているので、何を言っているのかは聞き取れない。
そんな声がずっと聞こえていた。
この現象は初めてだったので驚いたが、この日はとても疲れていたので、次第に怖いという感情より、怒りのほうが先に出てしまった。
「うるさい! 寝かせろ!」
そう思った瞬間、ぴたりと声がやんで何も聞こえなくなった。
それで安心してそのまま眠りについたけど、この夜以降、声は聞こえなくなったよ。
視えると相手が何をするのか気になって、気をもんでしまうけど、聴こえる場合は、自分が精神的に参ってしまったのかと思って大変だよ。
Zは話をした後、何事もなかったかのようにジュースを飲み始めた。
◇