【沖縄の怖い話】化けて人間を襲う「龕マジムン」

沖縄の民話にでてくる龕マジムン

ろうそく

むかしの人たちは、すべてのモノには霊魂が宿っているという精霊信仰を強くもっていた。

沖縄も精霊信仰があり、語り継がれている民話のなかには、モノが化けて人を襲ったという話がある。

精霊信仰が関係している民話はいくつかあるが、今回はその中の「龕マジムン」を紹介していく。

モノを粗末にすると魔物になる

旧沖縄県立博物館
龕=ガン。葬送のときに遺体を運ぶ輿のこと

がんとは、葬送のときに遺体を納めた棺を入れて墓まで運ぶものをいう。

風葬が行なわれていた時代に使われていた輿で、今は使われていないが、地域によっては大事に保存されていて、定期的に御願を行ったりしている。

龕が化けて人を襲ったという民話を二つ紹介していく。

その1. 牛に化けた龕マジムン

首里の綾門付近で夜な夜な牛の姿をしたマジムンが現われるようになり、綾門を通る人の魂を取っていた。

ついには亡くなる人も出て首里の人たちはほとほと困っていた。

ある日、噂を聞いた首里の役人がマジムン退治にでた。

役人は武芸に長けており度胸もあって、一人で綾門へ行き牛マジムンを待った。

深夜――役人が綾門にもたれながら夜空を見ていると、目の端に何か動くものが映った。

目を凝らして暗闇を見ていると黒いものが現われ、次第に姿がはっきりしてくる。

役人の前にやって来たのは目を光らせ荒い息をし、よだれをたらした大きな牛で今にも飛びかかってきそうな様子だった。

異様な牛の姿に始めは驚いた役人だったが、すぐに身構えて牛マジムンの襲撃に備えた。

牛マジムンは大きな声で吠えた後、後足で地面を蹴り役人へ突進してきた。

役人は牛の角をしっかりと捕え、体を突き刺されないようかわしながら刀で対抗した。

闘いは朝まで続いた。

役人は角を掴んだまま、何度も牛マジムンを切り裂いたが手応えがなかった。

体力が尽き役人に疲れが見え始めた頃、東の空が白み始め綾門まで朝日が届いた。

とたんに腕が軽くなり牛マジムンの姿が消えた。

驚いた役人は掴んでいた牛の角を見ると、角は棒に変わっており、その棒は龕を担ぐ部分だった。

これを見た役人は、夜な夜な現れたマジムンは牛マジムンではなく、龕が牛に化けた龕マジムンだと気づいた。

役人は龕マジムンが現われた原因を探ろうと、首里の人たちに話を聞いたところ、新しく龕を作ったので古い龕を捨てたという。

そこで役人と首里の人たちが捨てた龕を見に行くと、龕は無造作に置かれていて担ぐ部分の一部が欠けていた。

役人が牛マジムンの角だった棒をつなげてみると、欠けていた部分にぴたりと合ったことから綾門に現われていた牛マジムンは龕マジムンだったことがわかった。

首里城
守礼門
  • 綾門あやじょう…首里城にある守礼門のこと。
  • マジムン…悪霊や魔物のことをいう。
    むかしは幽霊のこともマジムン(まじもの)と呼んでいたようだ。ただし沖縄本島ではユーリーという呼び方もあった。

その2. 夜な夜な現われる魔物の正体は?

ある集落で夜になるとマジムンが現われるようになった。

マジムンは人の姿を見つけると走り寄ってきて、いつまでも追いかけてくる。

マジムンは人間の魂を取るというから、追いかけられた人たちは命からがら家まで逃げ帰ったという。

しかし変わったマジムンで、見た者いわく「アヒラーマジムンだった」「豚グヮーマジムンだった」と正体が一致しない。

噂を聞いた一人の若者が「これはおもしろい。捕まえて自慢しよう」とマジムンに会いに行った。

夜――マジムンが出るという場所で若者が待っていると、ぼんやりとした白い姿のアヒルが現われた。

アヒルは、目が血走ったように赤い上に普通のアヒルよりもひと回り大きかったことから、若者はアヒラーマジムンだと気づいた。

マジムンは、羽をバサバサ揺らしベタベタと足音を立てながら若者のところへ走り寄ってきた。

アヒラーマジムンが若者の手が届くところまで近寄ってきたところ、若者は持っていた縄をすばやくマジムンの足に結び、縄の反対側を近くの木へくくりつけた。

捕えられたマジムンは怒って暴れ出し、アヒラーマジムンから豚グヮーマジムンへ、豚グヮーマジムンからアヒラーマジムンへと姿を変えて若者を脅した。

若者は捕まえたマジムンをそのままにしておき、逃げないよう近くで見張ることにした。

一晩中大暴れしていたマジムンだったが夜が明けると急に静かになった。

どうしたものかと若者が様子を見に行くと、マジムンの姿は消えており、代わりに縄の端には板切れが結ばれていた。

手柄が消えてしまった若者は落胆し、仕方なく板切れを持ち帰り、村人に昨夜の出来事を話した。

ほとんどの村人が若者を馬鹿にして笑っていたが、板切れを拾い上げてしばらく見ていた古老が口を開いた。

「馬鹿者!これは龕マジムンだ。龕を新しくしたとき、古い龕はちゃんと燃やしたのか」

怒鳴られて驚いた村人たちはしばらくぽかんとしていたが、龕を新調したことを思い出し、古くなった龕を燃やし忘れていたことに気づいた。

慌てて古くなった龕を見に行くと、龕には欠けた部分があり、その部分がマジムンになっていたという。

  • アヒラー…アヒル。「アヒラーマジムン」はアヒルの化け物
  • 豚グヮー…ブタ。「豚グヮーマジムン」はブタの化け物


むかしから古くなって不要になった龕は、粗末に扱うと龕マジムンとなってしまうので、供養してすぐに燃やしてしまわないといけないと言われている由縁である。

龕マジムンは変化が得意なようで、今回紹介した民話では牛・アヒル・ブタに化けていたが、ほかに人間に化けた話もあった。

民話の共通点は「物」が化けていることで、アニミズムの考えが生活の中にあり、とくに長く使った物には魂が宿るという話は沖縄以外でも聞いたことがある。

伝説が語り継がれていおかげなのか、現代の生活の中でも物を粗末にしてはいけないという考えが身についているように思える。

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