日本各地にある類似の伝承
日本各地には似たような伝承がある。
現在のようにテレビなど共通の媒体を通して全国に広がったのならわかるが、それがなかった琉球時代の民話に、海を隔てた地域と似たような話が残っているのはなぜだろう。
沖縄の怪談に東京で知った民話と似ている話があったので紹介していく。
東京と沖縄で共通する石枕の伝承
たまたま寄った東京の公園で興味深い説明板を見つけた。
内容は公園にまつわるもので「姥ヶ池」の伝承を次のように紹介していた。
姥ヶ池(東京都台東区)
姥ヶ池は、昔、隅田川に通じていていた大池で、明治二十四年に埋立てられた。浅草寺の子院妙音院所蔵の石枕にまつわる伝説に次のようなものがある。
昔、浅茅ヶ原の一軒家で、娘が連れ込む旅人の頭を石枕で叩き殺す老婆がおり、ある夜、娘が旅人の身代わりになって、天井から吊るした大石の下敷になって死ぬ。それを悲しんで悪業を悔やみ、老婆は池に身を投げて果てたので、里人はこれを姥ヶ池と呼んだ。
東京都指定旧跡 姥ヶ池
・所在地…台東区花川戸二丁目四番 花川戸公園内
・指 定…昭和十四年十二月
平成八年三月八日 建設/東京都教育委員会
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この話を読んだとき、沖縄の民話にも同じ話があったことを思い出した。
【沖縄の民話】入る姿は見るが出る人はいない宿
ある日、山越えをしようとしていた旅人がいた。
村に入った頃には日が暮れかかっていたので山越えは危険だと判断し、村人に宿を求めてきたので母娘の宿を紹介した。
旅人は村外れにある宿へ向かい、日も沈んだ頃に宿の戸を叩いた。
しばらくすると返事が聞こえ、美しい娘と老婆が迎えてくれた。
旅人は二人のていねいなもてなしに感動し、すっかり気を許し、お酒も入ったことで大胆になってきた。
気分よく酔った旅人はいつの間にか老婆の姿がないことに気づいた。
そして旅人に寄り添ってお酒をつぐ娘へ目をやると、娘には怪しげな色気が漂い、心なしか誘っているような素振りも見せる。
偶然を装って娘の手に触れてみると、手を払うことはなく娘は顔を赤らめて微笑んだ。
娘に気があるとわかった旅人はさらに大胆になり、娘へ迫ってみると娘は嫌な顔をしない。
そこで意を決して娘と一夜を過ごすことにした。
旅人が娘を押し倒そうとすると娘は男を制し、奥の部屋へと案内していく。
旅人はいよいよその気になり喜んで娘の後をついていった。
通された部屋は暗くて様子がわからなかったが、娘が男に横になって待っているように言い枕を勧め、着替えるからと隣りの部屋へ入って行った。
男は石枕に頭を乗せて娘を待っていると障子が開く音が聞こえ、近づいてくる足音がした。
すぐそばまでやって来た気配を感じてゆっくり見上げてみると、そこには大きな石を持った老婆が立っていて、男の頭めがけて石を振り下ろした。
翌朝。村人が宿の母娘に男が訪ねてきたか聞くと、すでに立ったという。
宿へ入っていく人の姿は見るが出て行く姿を見た人はいない――
そんなことが何度も続いていたので村人は妙だとは思っていたが、宿は年老いた母親と娘の二人で営んでいたので詮索しなかった。
別の日、年若い青年が宿を訪れ、同じように娘と老婆が迎えた。
いつものように娘が給仕していたが、話していくうちに青年の身の上を知り、清廉潔白な姿に娘は情が移ってしまった。
そこで娘は母親が青年を殺そうとしていることを打ち明け、青年を逃がした。
奥の部屋では老婆がいつものように旅人が来るのを待っていた。
障子が開く音がし、娘が枕を勧める声がした後、静かになった。
老婆は障子をゆっくりと開けて部屋へ入り、枕元へ近づくと思いっきり腕を上げて石を振り下ろした。
事が済んだ後、老婆は明かりを灯して部屋を見てみると、布団には血まみれになった娘の無残な姿があった。
わが子を殺してしまったことに気づいた老婆は気も狂わんばかりに泣き叫び、失意のうちに命を絶った。
朝になり、逃げ出した旅人が村人たちとともに宿へ行ってみると、二人の遺体とこれまで奪ってきた持ち物が見つかり真相が明らかとなった。
◇
海を隔てているのに似たような民話があるのは今も昔も変わらないようだ。
今回は偶然見つけた伝承だけど、集めてみると比較ができ、新しい発見もあるかもしれないと思った。